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「祝祭」と駆け抜けた夏

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平成が終わる。
わたしは平成5年生まれなので、生まれてこの方、時代はずっと平成だった。
だから昭和とか大正とか、そういう時代があったことは知っているけれどそれがどんなものであったのかはよく知らない。

西暦が世界のスタンダードである中、日本でしか通用しないこの元号の括りになど、もはや囚われる意味はないのかもしれない。
けれど、何をするにも「平成最後の夏」が脳裏にちらついて、なんとしても良い夏にしなければと、呪縛のようなものにかかっていた。

そんな「平成最後の夏」も、いままさに終わりを迎えようとしている。
窓を開けると入ってくる涼しい夜風や、スーパーに並ぶ赤や茶の色をしたビールやお菓子や、なんだか似合わなくなってしまった鮮やかな水色の洋服が、秋の訪れをわたしに知らせる。


この夏を振り返ると、本当に色々なことがあった。
瀬戸内海の島々の一人旅、大好きでたまらないバンドの完結、フジロック、高円寺の阿波踊り、キャンプ。どれも思い出すときらきら輝く思い出ばかりで、いつもの夏よりも特別を感じる瞬間ばかりだった。

ただ、こうした特別な思い出は、なんでもない日々の生活が存在するからこそ、特別になるように思う。勝者が存在するために敗者が必要であるように、特別が特別であるためには、なんでもない日常が必要なのだ。

そしてそんな「平成最後の夏」の日常を彩ってくれたのは、他でもない、カネコアヤノの「祝祭」だった。


わたしはこのアルバムのことを、猛烈に気に入っている。
どのくらい気に入っているかというと、全曲何も見ずとも歌えるくらいには聴き込んでいるし、カネコアヤノのライブには今年どのアーティストよりも足を運んでいる。
8月に発売された弾き語りアルバム「祝祭 ひとりでに」も毎日のように(しかも1日3周くらいしている)聴いては楽しんでいるし、昨日発売のLPももちろん手に入れた。


なんでこんなに好きになってしまったのだろうか。

ちょっと考えてみたけれど一言では表現出来ないので、1曲ずつ好きなところを挙げてみようと思う。


1.Home Alone

アルバムの最初を飾る1曲。
高円寺に越してきて、暮らしにもようやく慣れてきた頃に聴いたのでなんだか自分の歌のように思えてしまった。
何度かバンドセットで見ているけれど、‟傘がいるらしいけど~”のあとのベースがギュンギュン(この擬音が一番正しいと思う)すぎて毎回笑ってしまう。とても良い。
それと歌詞に出てくる「かくしんてき」という言葉、ずっと「革新的」だと思っていたけれど歌詞カードを眺めたら「確信的」だった。
なるほど、これからまた違った聴き方が出来てしまうなあ。


カネコアヤノ - Home Alone


2.恋しい日々
無条件にアドレナリンの出る曲。最初の勢いの良いギターのリフからして気に入っている。
瀬戸内海の島で一人この曲を歌いながら自転車に乗ったこと、きっと忘れないだろう。
歌を歌うとか、洗濯物を入れるとか、目覚ましをかけるとか、日常の些細な動作一つひとつが、恋しい日々を作り出しているのだなと思った。
それからただ脳内で歌いたいがために、‟冷たいレモンと炭酸のやつ”をこの夏はたくさん買ってしまったけれど、どれもおいしかったな。


DRIP TOKYO #2 カネコアヤノ
※1曲目が恋しい日々。


3.エメラルド

‟朝はエメラルド”というはじまりからして、名曲に決まっている。こんな表現、思いつかないのでちょっと嫉妬してしまう。
‟クローゼットの中で一番気に入っているワンピース着ていくね”という歌詞も、これ以上に好きだという気持ちを婉曲に伝える方法があるのかなあ、というくらいピタっとくる言葉。
グロッケンの音も軽やかで、朝に聴くとそれだけで世界がちょっときらきらする不思議。


4.ごあいさつ

‟今となりの君のまつげがおちるのを 見逃さなかったよ”という少し得意気な歌詞がかわいい。
(歌詞カードをよく見たら、最初のフレーズはおちるなのに最後のフレーズは落ちると漢字表記になっていた。なにか意図があるのかな。)
未来も過去もなんだかどうでもよくて、今この瞬間、君がとなりにいることが幸せだという歌。救いや愛を信じて、楽しく生きていたい、とわたしも思う。


5.ジェットコースター

アルバムを通して、1番といっていいくらいお気に入りの曲。
ライブでの手の動きを見て覚えて、家で何度も歌った。
君の寝息が聞けたり、君が笑ってくれたりするだけで、そんなによく思っていないこの街のことも好きになれてしまうなんて、恋の持つ力はなんと大きいのだろう。
君さえいれば、住んでいる場所がどんなとか関係なくて、ただそれだけでいい。そんな赤裸々でまっすぐな気持ちが、心にすっと染み渡る名曲。


6.序章

ジェットコースターからの流れがとても心地よくて、私の中ではこの2曲はなんとなく1セットだ。
どちらの曲の根底にもあるのが君(あなた)への好きだという気持ちなのだけれど、序章のほうがなんというか、もっと気持ちが全面に出ている気がする。
‟知識が増えるほど あなたと暮らしてみたいと景色を眺めてしまう”だなんて、言葉にすると照れくさいようなこともまっすぐ歌っていて気持ちがいい。
あとこれは完全に個人的な思い出だけれど、高校生の頃に自転車通学をしていて、学校の先生に理不尽な怒られ方をしたのが未だに忘れられないから、‟無性に腹がたって涙がでてきた”という歌詞に心底共感してしまうわたしがいる。

 
7.ロマンス宣言

この曲だけなんだか歌謡曲っぽい雰囲気になっている不思議。畳み掛けるように矢継ぎ早に出てくる言葉が心地よい。
歌詞に‟謝りたくない”というフレーズがあるのだけれど、バンドセットのときには「あやまりたくな~~~い!!」と絶叫するのが好きだ。
わたしも‟そろそろロマンスどうにかしなくちゃ”。


8.ゆくえ

アルバムの中で唯一、コード進行なのかメロディなのかわからないけれど陰を感じる曲。‟今まで ほんとうこわかったよね”の一言だけで、抱きしめられているような気持ちになる。


9.サマーバケーション

”全員きれいに同じ顔して返事しやがって”という歌詞がとても好きなのだけれど、先日柴田聡子のライブを観ていて、「リスが来た」という曲の‟ダイエットしながら太ってんじゃねー!!”という歌詞に、なんだか同じ理不尽さを感じて、どちらの曲もさらに好きになった。
それから、‟夏が終わる頃には全部がよくなる”という言葉に、ずいぶんと励まされたな。祈りのようなものだったけれど、だんだんそれが現実味を帯びてきて、なるほど祈りも信じると毎日が楽しくなるなと思った。
後半につれて盛り上がっていく曲展開も、夏のあの感じが音に出ていて、とても気に入っている。


10.カーステレオから

不安に対しての解決法が、おいしいもの食べるとかあいつに電話をかけてみるとか、曲全体に流れる能天気でちょっとバカっぽい空気感がとても良い。
‟いつまでも今が一番いいから”という歌詞に負けないように、今が一番になるように生きなきゃな、と思ったりもする。
「ひとりでに」のアレンジはかなり独特でそれもまた良いんだけれど、曲終わりにちょっとだけ聞こえる「どう?笑」にキュンとする。


11.グレープフルーツ

この曲は、‟恥ずかしいそれはかっこいい”という歌詞が一番好きだ。
文字でも音楽でも絵でもなんでも、何かを表現しようとすることはとても勇気がいるし、自分の一部を晒しだすことはとても恥ずかしい(こんなブログでさえ、書くときは毎回とても悩むし恥ずかしい気持ちにもなる。)けれど、それを乗り越えないとかっこよさは生まれない。
表現することに対して、とても肯定されているような気持ちになった。
‟いまのわたし 甘い砂糖と苦いグレープフルーツみたい”という歌詞も、まさに今のカネコアヤノを象徴しているような、素晴らしい歌詞だと思う。


カネコアヤノ「グレープフルーツ」Music Video


12.アーケード

この曲の勢いとギターがとても好きなので、ライブで毎回のように演奏してくれるのも嬉しい。
‟なんにもないけど この先ずっと 情けないこともゆるしてほしいよ”とか、‟すべてのことに 理由がほしい”とか、ちょっとわがままで自分本位な歌詞もまた好きだ。この曲、ぜひカラオケで歌いたいので早く入らないかなとずっと思っている。


13.祝日

アルバムの最後にして、大名曲。初めてのこの曲を聴いたとき、心が震えるとはこういうことなのかと思った。
この曲の歌詞やメロディはどこを切り取っても好きなのだけれど、中でも特に‟幸せのためなら いくらでもずる賢くいようよ いつまで一人でいる気だよ”というところが気に入っている。他人にやさしくしようとか、そんな歌はたくさんあるけれど、こんなこと、なかなかここまではっきりと歌ってくれる人、他にいないんじゃないかな。
あとこれは自分でこの曲を弾き語りしてみて初めて気づいたことなのだけれど、最後の‟これからの話をしよう 祝日、どこに行きたいだとか”の祝日~と伸ばす部分、曲の中でここでしか出てこないコードが使われていて、確かにそういう視点で聴くとここでぱあっと開ける感じがあり、曲の作りとしても素晴らしいなと思った。
ジャケットにも使われているカネコアヤノの瞳が美しいPVもとても好き。
「祝日」という曲名からして好き。なにもかもが大好き。


カネコアヤノ - 祝日



同じ時代を生きていることをひしと感じることの出来る歌詞やメロディや歌声は、気づけばわたしの生活の一部となり、上品に光るラメみたいにきらきらと日常に溶け込んだ。

発売からこれまで、本当に毎日聴いているけれど、飽きずに毎回楽しめているのは、何よりこのアルバムがいかに素晴らしいかを物語っているように思う。


これから先、きっとこのアルバムを聴くたびに、「祝祭」と共に駆け抜けた平成30年の夏の日々を思い出すだろう。
「平成最後の夏」をいいものにしなくてはならない、という呪縛から解放してくれたこの愛おしい音楽を、わたしは今日も明日も明後日も聴くのだろう。


これからの人生を、この音楽と共に歩めるというだけで、とても頼もしいな。
どこを切り取っても素晴らしい「祝祭」、ぜひ聴いてみてください。